就業規則の作成・改定を考えている方のために
就業規則の作成・改定について
就業規則は、なぜ作成する必要があるのか?
私が労働基準監督署で勤務していた時、窓口へ相談に来る人は経営者が10~15%で、それ以外は労働者でした。
その経営者様からよくあった相談の中で、「社員が突然出社しなくなってしまい、連絡がとれません。どうしたらいいですか」というものがあります。
さて、御社(あなた)だったら、どうしますか?
私がその時の窓口でも、今でも言うことは同じです。
「貴社の就業規則には、そのような時どのようなルールになっていますか?」とお聞きします。
すでに就業規則がある多くの経営者様は
「!?、就業規則を作成して以来、一度も見たことがないのでわかりません」
就業規則がない経営者様は、そもそも答えることができません。
本来、そのような事案が発生した場合に備えて、その取り扱いやルールが明記されているものが就業規則です。
ですから就業規則はあってもその取り扱いやルールが明記されていない、もしくは就業規則がなければ、その出社しなくなった社員に対して何も対応できなくなってしまいます。
あなたがそのルールがない状態で、その社員を退職とみなして労働社会保険の退職手続きをしました。
ところがその2か月後にその社員が何もなかったような顔をして出社してきたとしたら、あなたはどうしますか?
あなたが「君は退職扱いにした」と伝えると、
その社員が「いいえ、まだ働きます」と悪びれることなく言ったとします。
あなたが「何を言ってるんだ!連絡もつかなかったじゃないか!勝手に休んでおいて、その態度は何だ!クビだ!」と言ったら、
社員は「それって不当解雇でしょ!」と言って労働基準監督署へ駆け込み労働トラブルになってしまいます。
これは仮の話ではなく、実際に起きた話です。
その時に就業規則に「社員の行方が不明となり、1か月以上連絡が取れない場合は退職扱いとする」と明記されていれば、あなたは堂々とその社員に対して「弊社のルールに則り、あなたを退職扱いとした」と根拠をもって伝えれば、余計な労働トラブルを避けることができます。
就業規則があれば、会社内で起こる社員トラブルに対してすぐに対処することができます。
就業規則について、他の例でもう少しお伝えしたいと思います。
あなたは、何かスポーツをするときに、そのルールに従ってプレーをしていると思います。
例えば、今あなたがグランドでフットボールをしているとします。
四角に囲まれたプレーエリアで、相手チームと戦っています。
その時、プレーヤーたちは当然ルールを知ったうえでプレーしているので、スムーズにゲームが進行しているはずです。
ところが、どちらかのプレーヤーが危険なタックルをする、またはボールがオフサイドラインを越えてパスされるとオフサイドプレーとして、レフェリーが試合を止め、イエローカードが出たり、ボールが元の位置へ戻されたりします。
レフェリーは、試合中にプレーアリアで起きるすべてのプレーに対して、ルールブックを熟知しているので、どうジャッジするのかがわかっています。
彼はどんなことが起きようとも粛々とジャッジし、プレーを進行させることができます。
フットボールにはプレー中に起きうる危険行為、攻撃や守備どちからが不利益となる行為、もしくはアドバンテージなど、すべてのプレーに対処できるようルールが決められています。
仮にルールブックにない行為が発生したとしても、その時に問題のないジャッジをして、後日ルール改正を行います。
この話をあなたの会社に置き換えてみてください。
プレーエリアは、あなたの会社、もしくは職場内です。
プレーヤーは、社員同士。
レフェリーは、経営者または幹部社員となります。
ルール改正は、法改正や社内ルールの変更
職場内では「突然社員が出社しなくなった」「社員がうつ病になった」「不良態度を何度注意しても変わらない」「セクハラ行為が発生した」などなど、いろんな問題が発生します。
その時に経営者様が、感情的な判断や一部社員を優遇扱いするのではなく、全社共通のルールに従って問題を解決していったら、どうでしょうか。
社員当事者も、上司だから、部下だからといった不平等な取り扱いを受けることもありません。
それを見て、周りの社員達からも納得感を得られやすい職場環境になります。
そしてパワハラに関する法律等施行された時、または社内で社員を労うために誕生日休暇を設定したい時など、就業規則を変更すればいいことになります。
スポーツのルールと同じで、全社員に共通したルールが就業規則ということになります。
別の言い方をすれば、「会社が、社員一人ひとりに求める姿勢や行動ルールが明記されているもの」になります。
もしあなたの会社に就業規則がない、もしくは何年も変更していないとしたら、それはルールのない職場、時代に合っていない職場で社員が働いていることになります。
いわゆる「無法地帯」です。
社員をその無法地帯で毎日働かせて、もし労働トラブルが発生したたら、あなたの会社はどうなると思いますか?
社員のやりたい放題が通ってしまうことになります。
その時にジャッジするためのルールは労働法だけです。
労働法に明記されているのは、ほぼ労働者有利なことばかり。
経営者様は、その社員と争えば、とても不利な状況になるでしょう。
それは社員1人の会社であっても同じです。
そうならないために、まずは「社員を1人でも雇入れたら、就業規則は作ること」がとても大切ポイントになります。
就業規則にどんなルールを明示すればよいか?
就業規則作成において、「明記しなければならないもの」と、「明記しても良いし、しなくてもよいもの」があります。
前者は労働法で、後者は会社独自のルールになります。
労働法とは、労働基準法、労働契約法、その他ハラスメント等に関するもので、これらは就業規則へ記載しなければならない項目がいくつかあります。
この部分は単純に記載するだけになります。
経営者様にとって作成時に大切なポイントは、「会社独自ルールの作成」です。
これは労働法に書かれていない箇所をいい、民法を上回っていれば会社独自のルールを記載することができます。
例えば、「年次有給休暇(労基法39条)」を例にします。
年次有給休暇(年休)の発生要件は、
「会社は、社員(労働者)が入社日から6か月継続勤務し、その所定労働日の出勤率が80%以上であれば、6か月を経過した初日(基準日)に年次有給休暇を与えなければならない」
加えて勤続年数に応じた年次有給休暇付与日数表なども記載されます。
これが明記しなければならい法律の一つです。
社員が年休発生要件を満たせば、経営者様からそんなことを認めないといっても労基法上その権利は当然に発生してしまいます。
ところが労基法39条には、年次有給休暇の発生要件や他にもいくつか書かれていますが、社員が年休取得をする場合の手続きについては一切書かれていません。
この法律の書かれていない部分に「会社独自のルール」を設定することが可能になります。
もし就業規則に年次有給休暇取得の手続きルールを明記しておかないと、どんなことが起きるでしょうか?
就業直前に会社へ電話を入れて年休取得を申し出る社員が続出します。
そうすると朝から現場が人員不足で混乱するということが頻繁に起き、腹立たしい一日になってしまいます。
それでは、どのように会社独自のルールを明記できるのでしょうか?
就業規則に、
「社員が年休取得を申し出る場合は、就業直前ではなく、前日(会社によっては前々日)までに上司へ決められた書式で申し出ること」を明記します。
また長期間の年休取得する社員の場合は、
「長期年休(連続年休5日以上)を取得する場合は、年休取得日の1か月前までに上司へ決められた書式で申し出ること」
と明記したら、どうでしょうか。
そうすれば社員全員、この会社独自ルールに従わなければならなくなります。
経営者からすれば、「就業直前に年休取得の申出をするなんて、現場責任者や他の社員に迷惑になるとわかっているから世間常識で当たり前だろう」と思われるかもしれませんが、実際にはそのように考えない社員も少なからずいます。
本来なら社員一人ひとりが同じ意識を持っていれば、このようなことを心配することはありません。
しかし社員の育った環境や躾の違いで、世間常識は必ずしも皆同じということはないのです。
私は、年休取得についての2つの記載例を示しましたが、こういう会社独自ルールを増やしていくことで、職場内の無法地帯をなくすことが必要だと考えています。
職場内に労働法以外の会社独自のルールが至るところにあれば、何かトラブルが起きた時にもすぐに経営者様や幹部社員さんが現場で対応できますし、社員みな共通意識を持って働くことができます。 そうすれば、労働トラブルから会社を守る「企業防衛型の就業規則」が作成できるようになります。
就業規則作成・改定は、インターネット等で無料配布しているひな型で作成して大丈夫か?
法律をよく知らない経営者様の場合は、私はインターネットなどで無料配布しているひな型で作成することはお勧めしません。
・法律関連だけが明記されているものが多く、労働者側有利なものが多い
・会社独自のルールの記載がなく、企業防衛型ではない
・自分達で修正・追記する箇所が多く、うまくカスタマイズできない
書店などで販売されているCD付き就業規則作成本を基にして就業規則を作成することは、どうでしょうか?
こちらは、有名な弁護士、専門家が出版されているものなので、内容的には問題ないと思います。
問題は、あなたご自身で自社の規模や業種に合わせて、ひな型の文章を法律違反にならないよう会社に有利な独自のルールへカスタマイズできるかということです。
単純に社名や数字のところを変えるだけ良いというものは、ほとんどありません。
なぜなら、著者が提供する就業規則のひな型は、一定規模の社員数や業種を想定して、どこでも問題なく通ずるようなものを提供しています。
そうしないと本が売れないからです。
しかし10名の企業と100名の企業では、経営者の考え方が違えば会社独自のルールも違いますし、業種でみても小売業では日勤のみ、介護業では日勤・夜勤と勤務体系が全く違います。
そのような前提でも、法律をしっかり理解して、ご自分でカスタマイズして就業規則を作成できるのであれば問題はありません。
もし専門家に作成してもらうとしたら、どうやって選べばいいのか?
就業規則作成の専門家と言っても、いろんな人がいます。
あまり資格保有者や肩書に惑わされないようにした方が良いと思います。
就業規則作成を依頼する時のポイントは、依頼した相手が以下のことをあなたに事前にヒアリングしてくるかどうかで判断してください。
- 就業規則を作成する目的は何か?
- あなたは、5年後どんな会社にしたいと思っているのか?
- 過去にどんな社員トラブルがあったのか?
- 雇いたくない社員は、どんな人なのか?
- 理想とする社員は、どんな人なのか?
- 社員を労い大切にするために、どんな福利厚生を考えているのか?
私は、これらのことを作成前に最低限ヒアリングしてこない人への依頼は止めた方がいいと思います。
なぜなら、あなたが理想とする会社へ社員を導くために、それらをヒアリングせずに就業規則を作成することができないからです。
理想の社員さんがいてくれるから、会社が成長するわけですよね。
私は、労働基準監督署の窓口でいろいろな就業規則を見てきましたが、社会保険労務士達が届出したものをよく見比べてみると、その多くは似通ったひな型で業種や規模は関係なく社名だけ変更して、その中身は他社とまったく一緒というものをたくさん見てきました。
経営者様が高い費用を支払っているにもかかわらず、これでいいのだろうかと思った次第です。
私は、経営者様が目指すビジョン、日々の悩み、期待することは、経営者様の数だけあると思っています。
それを経営者様と共有することから就業規則作成も始まると思っています。
もし、あなたが就業規則作成をお願いした相手が全くヒアリングもしない、または労働条件等最低限のことだけ聞いて作成する人だったら、勇気をもって断った方がいいです。
ちゃんと上記のヒアリングをしてくれる専門家を選んでください。
そしてもう一つ大切なことがあります。
それは、あなたが就業規則作成を依頼する人への質問です。
「就業規則ができたら、その使い方を教えてもらえますか?」と質問してください。
その時の返答が
「社員全員に周知してください」
「社員が閲覧できるところに設置してください」
「使い方って、どういう意味ですか?」と答えたら、
残念ながら、その方は就業規則の使い方をまったく理解していません。
社会保険労務士の方でさえ、同じように返答されこともあります。
その回答は労基法に定められている社員へ就業規則を周知させる義務のことです。
就業規則の使い方の答えにはなっていません。
私は、経営者様へ就業規則の使い方をご指導できない方であれば、就業規則作成の依頼を止めた方がいいと思います。
就業規則を作成してくれたけど、あとで労働トラブルが起きても何もフォローしてくれないということになりかねません。
私の言う「就業規則の使い方」とは
- 労働トラブルが発生したとき
- 社員の様子や行動がいつもと違うとき
- 社員がメンタルヘルス不調になったとき
- コロナ禍で社員を休業させなければならないとき
- 社内不倫が発覚したとき
- パワハラが起きたとき
経営者や幹部社員が、これらの労務問題が発生した時、その事案の当てはまる箇所を就業規則上で見つけ、そのルールに従って解決策を考え対処することです。
就業規則が完成したら、それで終わりではありません。
社員へ周知させ、「会社が、社員一人ひとりに求める姿勢や行動ルールが明記されているもの」を示すこと。
そして「あなたの会社らしさ」を社員に浸透させてください。 最後に、一番重要なポイントは、
就業規則は、日々の労務管理に活用すること!
今、あなたが弊社へ就業規則の作成・改定を依頼したい方は「就業規則の作成・改定を考えている方のために」へお進みください。
就業規則を変更すべきか迷っている方へ
既に就業規則があり、それを今変更する必要があるのか、もしくはどの程度の改定が必要なのかを知りたい方のために、弊社は「就業規則診断サービス(有料)」をご用意しています。
就業規則診断サービスは、貴社の就業規則を弊社へ送付いただき、その内容が就業規則の最重要項目18ポイントが満たされているかを数値とレーダーチャートでわかりやすくレポートにして、就業規則変更をすべきかどうか判断基準と解決策をお示しします。
まずは、お気軽にご利用ください。