パワハラ事案が発生した。懲戒処分は訓戒、減給、それとも懲戒解雇が妥当か?
今回、ある製造業で20年以上勤務する男性社員(以下「加害者」)のいじめ・嫌がらせの言動を受け、入社2年半の男性社員(以下「被害者」)が退職に至るパワハラ事件が起きました。
会社は、社長と幹部社員で構成するパワハラ委員会を設置し、被害者、加害者、第三者のヒアリングを実施しました。
当委員会は、社員が退職に至ったことを踏まえ、懲戒処分の重い順で、懲戒解雇、諭旨解雇、降格、昇格停止、出勤停止、減給、訓戒(始末書提出)のうち、幹部社員多数の意見により減給に仮決定しました。
しかし社長は、加害者が初犯でもあること、退職者が発生したからといって、減給は厳しすぎないだろうか。パワハラの原因は会社側にもあるかもしれない。それらを考慮せず処分すれば、後々不当な処分として労働トラブルへ発展するのではないかと心配され、私へご相談がありました。
この事案の経緯は、加害者は数年前より他の社員から新入社員へのパワハラ言動の報告があり、上司より数回にわたり口頭注意を受けていたにもかかわらず、被害者自身の申出による事件になってしまいました。
被害者いわく、仕事のやり方に対して加害者のルールから外れていると、バカにした口調で、自分のルールを強要してくる。そのルールも一貫性がなく、叱られるばかりで辛かった。挨拶をしても無視されていた。
自分自身の悪いところや直すべきところもあるが、この状況が続くことを考えると、精神的につらく、心が折れてしまったため退職届を提出したとのこと。
加害者は、気持ちに余裕がなく、知らず知らずのうちに苦手意識のある社員に対して強く当たってしまったことを認め、同時に今後の自分の言動を改め、アンガーマネジメント研修で得た「〇〇すべき」という価値観を捨てること。定期的な上司の面談を希望し、改善のためのアドバイスをもらいたいなど書面による反省の姿勢を示しました。
私たちは、懲戒処分の程度と妥当性、会社に過失がないか検証するため、注意すべき点を整理しました。
- 懲戒処分の目的は、加害者が勤務態度を反省し、その後の言動を改めるためになっているか
- 就業規則にパワハラ禁止条項が記載されているか
- 加害者への書面による注意指導を行ったか
- 会社は、大事に至る前に再発・防止に取り組んだか
- 被害者の受けた心身的ダメージを勘案しているか
- 加害者の言動で判断すべき点を、被害者のダメージに反応し感情的な判断になっていないか
これらを考え、出来事を一つ一つ整理した結果、会社は他の社員からパワハラ報告を受けた以後、加害者へ書面で注意をせず、再発防止のために継続的な教育指導しなかった。放置に近い状況が被害者の退職につながったと考えられ、会社にも一定程度の責任があると思われました。
また加害者は初犯であり、十分に反省していることも考慮すれば、訓戒が妥当という結論になりました。
社員を退職させたことは重大ですが、それだけをみて感情的な判断で加害者だけ責任を負わせ罰を与えるのは、私はフェアではないと思います。
訴訟で会社の過失の有無が問われることを考えれば、使用者責任と社員への安全配慮義務を考える必要があります。
懲戒処分は、労使双方にとって重大な案件であり、 かつとてもデリケートな問題です。
社員のお困りごとは、いつでも私へご相談ください。すぐ対応します。